2006年07月20日

プライスコレクション 若冲と江戸絵画

8月27日(日)まで、東京国立博物館・平成館にて

プライスコレクション「若冲と江戸絵画」展

が開催されています。



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プライスコレクションとは、半世紀前に当時美術史家にも見過ごされていた江戸時代の個性的な画家たちの作品に目を奪われたアメリカのジョー・プライス氏が収集をしたコレクションの事。

プライスさんは、上方の画家(江戸時代の京都の画家は上方の画家といいます)である伊藤若冲(いとうじゃくちゅう1716-1800)の作品をメインに収集され、同じく上方の画家円山応挙(まるやまおうきょ 1733-1795)、長沢芦雪(ながさわろせつ 1754-1799)等の作品や江戸画家の作品を収集されました。そのコレクションの一部が、日本に里帰りしてきたわけです。

どうやら、この規模での日本への里帰り展は、最初で最後になるらしい!


テレビ東京「美の巨人たち」で、円山応挙の素晴らしい日本画を知り、さらに同じ番組で上方の画家の紹介があり、友人が大好きだと言っていた伊藤若冲の作品にも惚れてしまいました。

その作品を一堂に拝見できるとあって、浮き足立って東京国立博物館に向かいました。

プライスさん、ありがとう!


うんちく抜きで、鼻息荒く、感想を述べていきたいと思います。
写真は全て、今回の展示会のパンフレットを携帯カメラで撮ったものです。


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一番上にある伊藤若冲の作品「紫陽花双鶏図」の、一部アップです。

どうですか?すごいでしょ??この足やトサカ。
そしてこのポーズ・・・
鶏の息づかいや羽の擦れる音、鳴き声が、今にも聞こえてきそうです。
この描写の細かさが、若冲の特徴になるのかな。

じっくりじっくり・・・いつまでも眺めていたいという衝動にかられます。

若冲の、トラの絵を眺めていた時、親切な年配の女性が、
「宜しかったら、これで見てみて。すごいわよ」と、私たちに単眼鏡を貸してくださいました。

すごいすごいっ!!驚愕です!!
毛一本一本、丁寧に描かれています。
しかも、よくみると、毛並みに沿った毛以外にも、逆らった毛まで丁寧に描かれています。
絵画の事は詳しくないのですが、普通の細筆では、ここまで細かく描けないのでは?
針の様な細い物を使って描いたのでしょうか・・・。

若冲の、細やかさと生き生きとした生き物の描写に感服。

「美の巨人たち」の説明では、若冲は鶏を描くと決めたら、まず鶏を飼って観察したそうです。
それも一年間!!
一年間、じっくり観察してから、二年目にようやく描き始めたそうなんですよ。
浮世離れしていますよね。

伊藤若冲は、京都・錦小路の青物問屋「枡源」の跡取り息子として生まれたのですが、絵を描くこと以外、世間の雑事には全く興味を示さなかったそうです。
そんな性格ですから、商売には熱心でなく、酒もたしなまず、一生独身でした。
40歳で財産や家業を全て弟に譲って隠居し、
念願の作画三昧の日々。
85歳で亡くなるまで、多くの作品を描いたそうです。


彼の生涯を知るだけでも、なんだか只者ではないですよね。
今で言う、変わり者。そして引きこもりだったのでしょう。



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「鳥獣花木図屏風」の一部。
こちらも、伊藤若冲作です。


こんな絵・・・というか、作風、初めて拝見しました。
日本の画家で・・・しかも江戸時代に描かれたとは・・・。




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左下の部分のアップです。


説明しましょう。
これはタイルを使用したものではありません。
約1cm間隔で引かれたマス目に、色を塗っているのです。
そのマス目をよーく観察すると、さらに内側に別の色相を塗り重ね、立体感や質感を表現しているんです。

屏風ですから二枚あるのですが、実物はかなり大きい。
でも、ひとマス1cm。
半端ないです。
どうやってこの作品を書き上げたんだろうかと想像するだけで、気が遠くなりそう・・・。

先述の鶏の書かれた絵とは全く違い、コミカルなイラストにも見える画風です。
まるで、ぬいぐるみかと思うような愛らしい動物がたくさんいます。

右の屏風には獣たち。左には鳥達が描かれているのですが、動物達、いや、生きとし生けるもの全てがとっても幸せそうです。
私には、楽園に見えました。
見ているこちらまで、幸せな気分になります。


若冲の作品には、鳥がよく登場しています。
彼はきっと鳥が大好きだったんでしょうね。
どの鳥も、生き生きしていて、今にも羽ばたいていきそうです。
また、正面を向いた鳥が描かれていたりします。
正面を向いた鳥の絵って普段あまり見かけませんよね。
やっぱり、鳥を愛していたに違いないっ!

他にもたくさんの絵画がありました。
絵を見ると、江戸自体の庶民の生活や思想が伝わってきます。

鯉が滝登りをすると龍になるという話から描かれた絵。
三千年に一度花が咲き実が成るといわれた、不老不死の仙桃の絵。

若冲も、この桃を食べて、もっともっと長生きして、もっとたくさんの絵を残して欲しかったな。



今回はさらに、素晴らしい展示方法で、日本画の奥深さを再認識させられました。

それは、「 特別展示(光と絵画の表情)」のコーナー。
屏風をはじめ、数々の作品が、ガラス張りをなくして直接展示されているのです。
それだけではありません。照明の明るさや色を変化させ、、「自然光のように変化し、作品に表情を与える陰影ある光」を表現しているんです。

色は光。当たる照明の色味が変わると、当然作品の見え方が変わってきます。
そういえばそうだ!江戸時代には電気がない。
私が今作品を見ているのと同じに、見えていたわけではないんだ!

照明には、蛍光灯(白い光)と白熱灯(黄色っぽい光)が設置されていて、蛍光灯の光を徐々に弱くして白熱灯の光のみにし、さらに白熱灯の光も消えてゆくという感じ。
例えて言うなら、白昼の光から夕暮れになり、暗くなる・・・また明るくなるといった流れです。

日が沈むと、ろうそくの明かり(黄色味を帯びた温かみのある光。例えるなら白熱灯の様な色ですね。)だけで生活をしていた訳です。

ろうそくの明かりのような照明で柔らかく照らされた金屏風は、私たちが普段目にするような華やかで輝かしいものとは違い、深い黄土色の様な、渋い色合いになるんです。
ろうそくだけが照明だったわけですから、金屏風にろうそくの光が反射して、なんとも言えない美しい空間をつくっていたんでしょうね・・・。

光の変化により、絵画の色合いが微妙に変化していくのが実感できる、すばらしい展示方法だと思いました。

これは、プライスさんの意向によるもの。
ガラスケースなしで、照明を変化させるなんて、保存環境や防犯上の問題で、普通は実現できないですよね。

プライスさんのお陰で、普段は気付かなかった事に、たくさん気付くことが出来ました。

プライスさん、感謝です!



まだまだ沢山感想を伝えたいのですが、これ以上長文になっちゃうとえらいこっちゃなのでこれぐらいで。



あ!もうひとつだけ!

それは幽霊。
二つの幽霊画がありました。

長沢芦雪「幽霊図」
切れ長の目をした美しく妖艶な幽霊。
腰から下が薄くなって足はありません。
・・・私だけかもしれませんが、右から見ても左から見ても、目が合うんです。こわい!

呉春(幽霊)松村景文(柳)「柳下幽霊図」
照明が変化するコーナーに展示されていました。
ふと見ると、照明が消えていた時。
ギャー!!
鳥肌が立ちました。怖すぎます。
顔が大きく青白い。やや白目を剥き、髪を歯くわえています。
恨めしい気持ちたっぷりの表情・・・。

いやぁ~参りました。


・・  ・・  ・・  ・・  ・・  ・・  ・・  ・・ 
 

プライスコレクション「若冲と江戸絵画」展は、
京都・福岡・愛知にもやってきますよ。

2006/9/23~11/5 京都国立近代美術館
2007/1/1~2/25 九州国立博物館
2007/4/13~6/10 愛知県美術館

少しでもご興味を持たれたら、是非是非、生で観て、全身で感じて下さい!


また、「若冲と江戸絵画」展 コレクションブログがあります。
それぞれの作品について、説明と絵画の写真が見られます。
参考にどうぞ。

○「紫陽花双鶏図
○「鳥獣花木図屏風
○「幽霊図
○「柳下幽霊図
○プライスさんのメッセージ



・・  ・・  ・・  ・・  ・・  ・・  ・・  ・・
  



プライスさんは、専門家ではなく江戸絵画を愛するコレクターのひとり。
24歳の時、当時まったく有名ではなかった伊藤若冲の作品に触れ、コレクションをはじめたのです。
今回の展覧会で、プライスさんは純粋に江戸絵画を、そして伊藤若冲を愛して下さっているのだと痛感しました。

プライスさん、愛してくれてありがとう!


あなたのお陰で、日本の素晴らしい作品の数々、江戸絵画の素晴らしさを知りました。



at 23:55│Comments(6)TrackBack(2) ★上野・谷中 

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1. ザ プライスコレクション  [ けこの関心空間 ]   2006年08月08日 20:35
今年はファンには堪らない、若冲年。 開催中のプライス・コレクション…
2. 伊藤若冲はやはり断然すごいプライスコレクションの意味するもの  [ 万歳!映画パラダイス京都ほろ酔い日記 ]   2006年11月03日 11:27
あく

この記事へのコメント

1. Posted by 花宵   2006年07月21日 12:30
はじめまして♪
ドリコムさんのトップの更新を見て、
お邪魔してみました。
私は一昨日プライスコレクションを観に行ったので、
チョット嬉しくなり・・
つぃ、コメント残してしまいました。
プライスコレクション、かなーり衝撃的でした。
ホント、プライスさんに感謝デス!!
ハシビロコウさんのブログ・・
ステキな情報がいっぱいでハマってしまいました★
またちょくちょく覗かせて頂きマス。
2. Posted by 某子   2006年07月21日 14:41
まずは長編ブログ、お疲れ様でした。
読み応え十分です。すぐに見に行きたくなりました。
それにしても、プライスさんってすごい人ですね!
「大切なのは、作品の前に立ったときに何を感じるかということだけ。
 何かを感じられる作品が、すなわち“名作”なのですから」
これが気に入りました。
難しい理屈をこねくりまわすのではなく、また、ほかの人の言っていることに惑わされず、とにかく見て感じること。
わたしも実際に作品の前に立って、感じに行かなくては。
(いまちょうど江戸のリサイクルの本を読んでいるので、照明のくだり、そうそう!って思いました)
3. Posted by gh(♪~)   2006年07月21日 22:11
こんにちわ。
先日は私のブログにお越しいただきありがとうございました。遊びに来ました♪
日本に置かれていたら個人蔵で埋もれてしまっていたかもしれない多くの作品がこうして公開されるのも、外からの目で日本の美を理解してくれる人がいるお陰なんですね(じみじみ)。
プライスさんの豊かさに感謝です。
そして、ハシビロコウさんの熱い感激が伝わってくる記事ですね{ハート}
4. Posted by ハシビロコウ   2006年07月22日 11:07
花宵さま
はじめまして!コメントありがとうございます。
ご縁があってお越し頂けた事、嬉しいです!
プライスコレクション、目からうろこの発見だらけで、大興奮でした。
ありがたいお言葉、感謝です。
またいつでもお越しください♪
それにしても花宵さんのブログ、
かなりのセンスの持ち主だとお見受けします。
黒地に背景黒の写真なんか、浮かび上がってるようで、とっても美しい。
そして、ケータイでここまで素晴らしいものが撮れるのかと感動しちゃいました。対象物の美しいこと・・・。
文章もしかり!
写真を撮るときの構図のセンスとかあやかりたいです。
私もちょこちょこ覗きに行きます~!
5. Posted by ハシビロコウ   2006年07月22日 11:19
某子さま
コメントありがとうございます!
いやぁ~ホント鼻息荒く、書きなぐってしまいました笑。
見てみたいって思って頂けて、とっても嬉しいです♪
今回の展示会、プライスさんの作品を愛する気持ちが、ひしひしと伝わってくる温かいものでした。
絵画たちも、さぞかし幸せな事でしょう・・・。
江戸時代の風俗が伝わる絵画もあるので、ほのぼのしますよ~。
梅ジュース、美味しそう!
大事に育てた梅だから、美味しさもひとしおですよね♪
思わず、小田原の梅ジュース(ちん里うの市販品)を飲んじゃった笑。
6. Posted by ハシビロコウ   2006年07月22日 11:35
gh(♪~)さま
こちらにもコメントありがとうございます!
遊びに来ていただいて嬉しいです。
さらにさらに、そう感じてくださって、嬉しい限りです♪
最近、日本のあちこちで大雨被害がでて、
長野の方面も心配ですね。
上高地のライブカメラを見ると、川が濁流になっているし・・・。
「人が使うエネルギーはおおよそ、それぞれに公平である。」というくだり、すっごく共感です。
私も、明神までゆったりと歩いて、岩魚をほおばるぞぉ~!{ウインク}
また、まったりとgh(♪~)さんのブログに遊びに行きます♪

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